人生の余り道  (時の足跡)

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

◆スタッフ

監 督 : スティーヴン・スピルバーグ

キャスト : メリル・ストリープ : キャサリン・グラハム

   トム・ハンクス  : ベン・ブラッドリー

   マシュー・リス  : ダニエル・エルズバーグ

◆あらすじ
ペンタゴン・ペーパーズ

米国政府は、ベトナム戦争に関する分析記録として「ペンタゴン・ペーパーズ」(最高機密文書)を作成していた。戦争に勝つ見込みはないのに20年以上にわたり歴代政府は国民に伏せて戦争を続けており、時の国防長官・マクナマラもマスメディアに対しては順調と発表していた。


政府職員の軍事アナリスト・エルズバーグは、政府が嘘をついていることに我慢できず、機密文書を持ち出してニューヨーク・タイムズにリーク、タイムズはそれを大スクープとして発表した。ニクソン政権は直ちに訴えたため裁判所はタイムズ紙の掲載を禁止した。


ワシントン・ポストの編集長ベンはこの事件を報道すべきだと考え、機密文書の出所を探って情報源が元政府職員のエルズバーグであることを突き止めた。何としても告発したいエルズバーグから4,000頁もの機密文書のコピーを受け取ったワシントン・ポストは掲載すべく準備した。


しかし、同社の法律顧問は裁判で負けたら会社は倒産してしまうと忠告、重役や大株主も反対に回った。ポスト紙のオーナーであるキャサリンは、女性だからといって軽んじられていたが、大方の予想に反して報道の使命に立ち返ってベトナム戦争で苦しむ人のために、機密文書の掲載を決断した。


政府は告訴したが、ワシントン・ポストは、ニューヨーク・タイムズと手を組み、また、他の多くの新聞社の後押しを得た結果、6:3で裁判に勝った。ジャーナリズムの正義を貫いたキャサリンは英雄として称えられた。


真夜中のウォーターゲートビルの6階、民主党の事務室のかぎが開けられているのを発見した警備員が点検すると、室内に数人の男が密かにうごめいているのを発見し、警察に通報した。



◆感 想

夫が自殺したことでポスト紙のオーナーに就任したキャサリンは、本来家庭第一の世間知らずで重役連中から軽視されるような女性だが、重大な決断を下すまでの揺れ動く心の葛藤と決心した後の毅然とした態度は本当にカッコ良く、その機微な様子をメリル・ストーブが好演している。


手作業によるレイアウト、活字組み、印刷された新聞が天井まで上り下りする様子など、「三丁目の夕日」的なひと時代前の新聞社の有様がとてもよかった。法律顧問の忠告にも拘らずキャサリンが勇気ある決断をしてゴーサインが出た後、印刷機が回る様子をオフィスに伝わる振動で表現していたのが印象的だった。


本作品は、1971年にアメリカで起きた国防総省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」流出事件を題材にした実話に基づいている。最終的に記事を差し止めようとした政府は敗訴し、この報道がアメリカ国内の反戦運動をさらに盛り上げる結果になったが、「公権力と報道の自由との戦い」はいつの時代でも、またどの国でも起きているとてもわかりやすいテーマである。


最後は夜中のビルに点滅する明かりを映し出して終わっている。一瞬何のことか思ったのだが、ニクソン政権とメディアの攻防となるウォーターゲート事件を匂わせている。トランプ大統領の誕生以来、アメリカでの政府とメディアの関係は極めて悪化している。


「権力と報道」をテーマにしたこの種の映画では、「スポットライト」「ニュースの真相」を思い出す。社会の動きを敏感に察知した映画がタイミングよく公開され、報道とは何かを考える意味でたいへん時宜に適った作品ともなっているのは、さすがアメリカと言わざるを得ない。


2018.04.20観賞

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