人生の余り道  (時の足跡)

ニュースの真相

スタッフ

監  督 : ジェームズ・バンダービルト

キャスト : ケイト・ブランシェット:メアリー・メイプル

   ロバート・レッドフォード:ダン・ラザー

あらすじ

ニュースの真相

ジョージ・W・ブッシュ米大統領が再選を目指していた04年、米国最大のネットワークであるCBSのベテランプロデューサー メアリー・メイプスは、ブッシュの軍歴詐称疑惑を裏付ける情報を入手した。メアリーのチームは直ちに情報源の信頼性、筆跡鑑定、元軍人などに手分けして確証を取りにかかった。


CBSでは、このスクープを伝説的ジャーナリスト ダン・ラザーがアンカーマンを務める看板番組で放送することとし、情報源である元将軍に直接電話で確認して証言を得た。しかし、タイプ活字の筆跡鑑定はやや曖昧な回答であったが、放送時間が迫る中、メアリーの決断でこのまま放送することに決した。アンカーマンのダンはメアリーに全幅の信頼を置いている。


このスクープ放映は米国内に大センセーションを巻き起こした。しかしその翌日、保守派のブロガーがネットでこの文書を「偽造」と断じたことから、事態は一転しCBSは激しい非難を浴びることになった。他社の批判報道もとどまるところを知らず、ついにCBS上層部は事態の収束を図るため、ダンが番組で謝罪したうえで内部調査委員会の設置を決定した。


委員会のメンバーには元議員などブッシュに近い有力者が多く含まれている。世論の関心は本題の軍歴詐称問題から離れてメアリー個人の追及に転化し、もはや疑惑は存在しないも同然になってしまった。メアリーは委員会の追及に対してジャーナリストとしての信念を述べて矜持を保ったが、委員会は出来レースのような形で進行した。その後、メアリーとダンは再びマスコミ界に戻ることはなかった。


感 想

2004年、アメリカのCBSテレビが放映したスクープ報道が巻き起こした事件の実録ドラマである。ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑は当時日本でも話題になり、テレビでダン・ラザー(その時は誰かは認識がなかった)が謝罪する画面の記憶がある。忘れてしまっていたが、今こうしてリアルに再現された映像を改めて見ると、あの画面の裏にこんなドラマが展開していたのかと感慨深いものがあり、見応えがあった。


映画の序盤に、スクープ情報を入手したメアリーが「今は新聞を見るひとはいないもの」と言うシーンがある。それは2002年、新聞「ボストン・グローブ」が「SPOTLIGHT」と名の付いたコラムで、記者生命をかけてカトリック教会のスキャンダルに挑み成功したことを指している。メアリーは、バラエティ―番組に押されっぱなしのテレビのニュース報道であの時を再現しようとの"野望"があったのだろう。


報道は「真実」が命、電話による情報源の「間違いない」の言葉で「確認」としたり、曖昧な鑑定人の意見を大丈夫だとしたことは、素人目にも裏付け調査は不十分だと思えた。締め切り時間に迫られ、バラエティに対する対抗心、メアリー本人の「SPOTLIGHT」を再現しようとの功名心、そして同僚や上司までもが彼女のプロデューサーとしての経験と勘に頼り過ぎていたようにも見えた。


報道の翌日、ブロガーがこの大スクープを誤報だと指摘したが、その根拠は告発文書の隅に印字された僅か1カ所の「th」のフォントが当時は使用されていなかったという。これは筆跡鑑定士も疑問に思った点であった。これをきっかけに様々な圧力がかかり、もっぱらマスコミの関心はメアリーの個人攻撃に移り、本題が捻じ曲げられていく。日本でもよく見られる光景だった。


本作品はそのメアリー・メイプルの自伝を原作としているので、自己弁護的雰囲気もあるかもしれないが、結局のところ真実は明確にはされていない。もしこれが偽情報だったとしたら何が目的だったのだろうか。CBSにダメージを与えるためだったのか?その点が曖昧だと感じた。


ダンが自分の番組で謝罪してテレビ界から去る時、メアリーに次のように言った。

"The day we stop asking questions is the day the American people lose.

(我々報道陣が質問をやめた時は、アメリカの国民が失う時だ)


これは現在トランプ大統領になったアメリカにとって、より重い言葉になっている。メディアが大統領就任式に集まった人数をオバマ前大統領時の1/3と報道したことを「ウソだ」と怒り、「これまで最高の人数だ」とした。そして「オールターナティヴ・ファクト(もう一つの事実)」とコンウエイ大統領顧問が強弁した。「事実」は立場によっていくつもある時代になったのか? もちろん、日本にも、他のどのような国にも向けられている言葉でもある。


2017.03.10観賞

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