人生の余り道  (時の足跡)

 虹の翼      吉村 昭著        (文春文庫)

地道な努力

二宮忠八はカラスが空を滑空する姿を目にして以来、人が空を飛ぶことはできないものか、という思いに強くとらわれる。軍隊勤めのかたわら、百種以上の鳥や昆虫の飛行状態を研究して飛行原理を見出し、それに沿って模型飛行器を完成させた。明治24年、ゴム紐を動力とするプロペラ飛行器は、二宮の期待どおり数十メートルも空を飛んだ。子供のころの凧揚げに始まった興味が、飛行機にまで発展したことに驚く。

革新と実績主義

二宮は飛行機の考案を上官に提出したが、一笑に付された。日清戦争の最中でもあったが、革新的な技術が日本社会の実績主義により阻まれてしまった。その後、ライト兄弟の成功により飛行機に対する国内外の関心が高まった時、かつての上層部の歴々が二宮の正当性を理解し謝罪した。

それにしても、国が後追いの叙勲をしたり、枢要な地位にあった人が謝罪することはなかなかできないことで、それだけに国として飛行機という革新的な技術を喪失させてしまった損失が大きかったともいえる。

実らなかった執念

二宮は退役後、様々な苦難を乗り越えて日本製薬業界の立て役者となったが、飛行機開発の思いは断ちがたかった。本業で開発資金を貯めながら開発を再開したものの、ちょうどこの頃にライト兄弟の成功を知り、遂にあきらめた。二宮にとっては「生涯をかけた悲劇」になってしまったが、その探究心、信念には頭が下がる。これからも広く科学技術,工学等に興味のある人に必読の書である。


2012.8.11読了

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