人生の余り道 (時の足跡)

ナポレオン

◆スタッフ

監   督 : リドリー・スコット

脚   本 : デビッド・スカルパ

キャスト

ナポレオン   : ホアキン・フェニックス

ジョゼフィーヌ : バネッサ・カービー

ポール・バラス : タハール・ラヒム

◆あらすじ
ナポレオン

フランスでは1792年にルイ王朝が倒されてルイ16世、翌年には王妃マリー・アントワネットがギロチンで首をはねられた。フランス共和革命の波及を恐れる反仏同盟諸国は港湾都市トゥーロンに艦隊を派遣して対共和反乱軍を支援した。


24歳のナポレオン大尉はトゥーロン港奪還に参戦、港を見下ろす高地の奪還を具申し、この案が採用されて外国艦隊を砲撃し、反乱軍を降伏させた。ナポレオンはこの功績により一挙に少将に昇進し、一躍フランス軍を代表する若き英雄へと祭り上げられた。


恐怖政治を敷いていたロビスピエールが失脚したため国内が混乱、トゥーロンで共に戦ったポール・バラスの信任を得たナポレオンは大胆な戦法で混乱を鎮圧した。これによってナポレオンは軍人としての地位と名声を手に入れた。


ナポレオンは社交界でカジノに興じる女性に目を止めた。気付いた女性がナポレオンに近づき、色目を使ったと責めた。それが寡婦だったジョゼフィーヌで、6歳年下のナポレオンの求婚を受けて結婚した。


ナポレオンはイタリア方面軍の司令官に抜擢され連戦連勝の戦果を挙げた。対仏同盟国の雄であるイギリスと植民地インドとの連携を絶つため、エジプトに軍をすすめてピラミッドの戦いで勝利した。


側近からジョセフィーヌの浮気を知らされたナポレオンは、周囲の制止を振り切って指揮を放棄してフランス本土に帰った。溺愛するナポレオンに対して奔放で淫乱なジョゼフィーヌの魔力が優った。


当時、対仏同盟軍に占領地イタリアを奪われるなど内外の問題が山積していたため、民衆はナポレオンのエジプトからの帰国を歓喜をもって迎えた。1799年ナポレオンはクーデターを起こして統領政府を樹立して独裁権を握った。


1804年12月、ナポレオンは皇帝の地位についた。皇帝はローマ教皇から王冠を戴くのが慣例となっていたが、ナポレオンは教皇の目の前で自ら王冠をかぶり、更に皇妃ジョゼフィーヌに冠を授けた。


1805年にオーストリア・ロシア連合軍とアウステルリッツで戦い、ナポレオンが軍事的天才を発揮して退却する敵軍を凍ったザッチェン湖に沈めるなどの巧妙な作戦で完勝し、多額の賠償金と領土を得た。


ナポレオンはジョセフィーヌに後嗣を生むことを求め、召使の前でさえもジョセフィーヌに行為を迫った。しかし高齢のため子が生めぬことを悟ったナポレオンはジョセフィーヌを離別し、1810年マリールイーズを娶り、翌年男子を授かった。


1812年、ナポレオンはイギリスとの関係を深めるロシアを60万の大軍で侵攻したが、ロシアは迫りくる厳寒を利用して焦土作戦を展開したため、激しく消耗したフランス軍は撤退したが生還できたのは僅か5000人であった。


対仏同盟軍に包囲されたパリが1814年陥落、ナポレオンは退位させられて地中海のエルバ島に追放された。しかし翌1815年にはエルバ島を脱出して再び皇帝に還り咲いた。


劣勢のナポレオンは、ワーテルローでプロイセン軍の到着前に英・蘭軍を各個に撃破しようとした。しかし、英蘭軍が巧妙な方形陣地を組んで善戦する間にプロイセン軍が到着してナポレオンの敗北が決した。


ナポレオンは再び退位し、南大西洋に浮かぶ絶海の孤島セント・ヘレナ島に幽閉され、1821年5月5日生涯を終えた。51歳であった。

最期の言葉は「フランス!…軍隊!…ジョゼフィーヌ!」だった。


◆感 想

まず最初に「なぜ、いまナポレオン?」との疑問が湧いた。

フランスでの世論調査によると、歴史上の英雄のトップはナポレオンだという。

ナポレオン・ボナパルトを「名」にあたる「ナポレオン」で呼ばれる歴史上の人物は極めて珍しい。アドルフ・ヒットラーもウィンストン・チャーチルも、その他の偉人は皆「姓」で呼ばれている。それほどにフランス人にとってナポレオンは身近な心の英雄なのだろう。


ナポレオンが幽閉されていたセントヘレナで死去して200年になる数年前、フランス各地で記念イベントが企画された。そうした盛り上がりを受けての映画製作だったのかもしれない。


映画は、混乱するパリの街でマリー・アントワネットがギロチンで斬首される場面から始まった。監督が「グラディエーター」のリドリー・スコット、主演が「ジョーカー」のホアキン・フェニックス、作品にふさわしい導入映像だった。


ナポレオンの生涯を、軍人、政治家、個人の3つの側面から見ると、本作品では軍人と個人は描かれていたが、政治家の業績が全く欠落していた。


1) 軍人としては、トゥーロン〜アウステルリッツ〜ワーテルローの戦いに至るまで、俯瞰からクローズアップ、砲戦から白兵戦まで極めてリアルに当時の戦争が再現されており、軍事的天才ぶりがよく描かれている。


2) 個人としては、妻ジョセフィーヌに翻弄されるナポレオンの内面を浮き彫りにして、愛や嫉妬や焦燥に狂う普通の中年男のよう描かれている。


政治家としての功績も大きく、税制度や行政制度を整備し、革命期に壊滅的な打撃を受けた産業振興に力を注いだ。有名なナポレオン法典は、当時の占領地全域で広まるとともに、フランスでは現在でも多くが生きている。


この作品はフランスではおおむね不評という。一人の人間として描かれた点は新鮮だが、表現の仕方があまりに肉欲的で弱い人間として描かれていた。歴史に名を遺す英雄・ナポレオンだからこそ政治家としてのカリスマ性や魅力に触れたほうがよかった。


2023.12.28観賞

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