人生の余り道 (時の足跡)

イニシェリン島の精霊

◆スタッフ

監督・脚本 : マーティン・マクドナー

キャスト : パードリック : コリン・ファレル

コルム   : ブレンダン・グリーソン

シボーン  : ケリー・コンドン

◆あらすじ
イニシェリン島の精霊

時は1923年、内戦に揺れるアイルランド本島から大砲や銃の音が伝わってくるイニシェリン島、全員が顔見知りのこの孤島で、気のいい男パードリックは親友と思っていた年長のコルムから突然の絶縁を告げられた。


動揺したパードリックがいくら話しても、「お前は退屈で、耐えられない」と言ってコルムは頑なに拒絶した。島では噂話をするかパブで飲む以外に楽しみがない。パードリックは毎日パブに通う。コルムも同様だが席を同じくすることはなくなった。


パードリックはまだ独身の妹のシボーンと二人で暮らしており、シボーンはパードリックが溺愛しているロバを部屋に入れるのを嫌がっている。一方のコルムは聞き分けの良い愛犬を可愛がっている。


年老いたコルムは生きた証を残すため好きな作曲に専念したいが、若いパードリックが何時間も無駄話をするのが気に入らない。突然コルムは「これ以上関わると自分の指を切り落とす」と宣言したのだ。


そしてある日、パードリックの家にコルムの切断された人差し指が投げつけられた。読書好きで知的なシボーンはコルムと話をしたが説得できず、コルムの行動に恐怖を感じて本島に行ってしまった。


数日後、コルムは左手に残る全ての指を切断してパードリックの家に投げつけた。それを食べようとしたロバは、指が喉に閊えて死んだ。パードリックの人が変わった。在宅しているのを知りながらコルムの家に火を放ったが、コルムの愛犬は救い出した。


翌日確認に行くと家は焼け落ちており、コルムは海辺に佇んでいた。犬はまっしぐらにコルムに走り寄った。コルムは愛犬が生きていたことにお礼を言い、パードリックのロバが死んだことを謝罪した。


パードリックは、怒りが消えたわけではないが言葉少なに立ち去った。なぜかいつもは聞こえる対岸の砲声が静かだった。


◆感 想

パンフレットに『第80回ゴールデングローブ賞 最多7部門8ノミネート』とあり、「すべてがうまくいっていた、昨日までは」とあったので、興味を持って観に行った。土曜日だったが、観客は私を含め3名だけだった。


本作品の舞台となったアイルランドに関する私の知識は乏しく、近年に急速な経済成長を遂げていることぐらい。2019年には、OECDによって労働者の生産性が世界第1位にランクされ、報道の自由、経済的自由、市民的自由など高く評価されている。


アイルランドの地図

本作品の時代設定はちょうど100年前の1923年(日本では大正末期、1902年に締結した日英同盟が失効した年)で、アイルランドはイギリスからの独立を求めて内戦状態にあった。


舞台となったアラン諸島のイニシェリン島はアイルランド本島西岸から約10キロ沖合の孤島で、大砲や銃の音が伝わる近さにあり、圧倒的な美しさと厳しさの大自然とは対照的に、貧しく暮らす村人同士のいざこざが描かれている。


絶縁を宣言したコルムの異様なまでの頑なさと、それを受け入れられないパードリックの争いが坂道を転がるように悲劇へ向かうさまは、唐突過ぎて物語の必然性について理解しにくかった。


第80回ゴールデングラブ賞は1月10日に結果が発表され、本作品は作品賞、主演男優賞、脚本賞の3賞を受賞した。快挙であるが、それが「ドラマ部門」ではなく、「ミュージカル/コメディ部門」となっていたのが不思議だった。


監督・脚本のマーティン・マクドナーは多くの受賞歴があり、作風の特徴はブラックユーモアとされている。パードリックとコルムの親しい者同士の喧嘩は、アイルランド本島の同じ民族同士の内戦を暗示するブラックユーモアだという。


この作品を理解するためには1つの作品だけでは無理で、マーティン監督の一連の作品を数多く鑑賞することで、その真価が理解できるのだろう。


ただコルムの頑なさについてはよく理解できた。私自身が70代後半の年齢になって同じ感覚を持っているからだ。あるところで『1年を50週、人生を80年と仮定すると人生は4,000週間になる』との話を読んだことがある。


とすれば、私自身は既に3,925週を消費し終えて、残るは75週のみとなる。来週の吹矢「北関東大会」で1週間消費、3月初めに免許証の高齢者講習があり3週間消費、、、。

こうしてはいられない、残された時間、何を優先しようか---。


2023.02.04観賞

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