人生の余り道 (時の足跡)

峠 最後のサムライ

◆スタッフ

監督   : 小泉堯史

原作   : 湊かなえ

脚本   : 堀泉杏

キャスト : ルミ子  : 戸田恵梨香

清佳   : 永野芽郁

夫・三浦誠己 : 三浦誠己

ルミ子の実母 : 大地真央

ルミ子の義母 : 高畑淳子

◆あらすじ
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女子高生が自宅の中庭で死亡しているのが発見された。母親は「愛能う限り、大切に育ててきた」と言葉を詰まらせる。世間は、これは事故か自殺かと騒ぐが、清佳にはそんな母親が信じられなかった。


〔時は遡って〕

ルミ子は、何事につけていつも優しく励ましてくれる母が喜ぶことを自分の喜びと思い、娘として母に尽くすことが何よりも幸せだった。


ルミ子は三浦誠己の描く絵は暗くて嫌いだったが、母が褒めると一転して母の意に沿い興味を持つようになった。誠己からプロポーズを受け、母が「良い人」との印象を持ったことで結婚を承諾した。


娘の清佳が生まれてもルミ子にとっては母が一番。祖母に刺しゅうをしてもらった清佳が別の柄の刺繍を求めると、ルミ子は手を滑らせて弁当を取り落とし(清佳はわざと落としたと見た)、同じ刺繍をしてもらうよう清佳に言いつけた。清佳は次第にルミ子の顔色を窺う子に育っていった。


嵐の夜の強風で、祖母と清佳の上に大木が倒れかかり火事になった。ルミ子が母を助けようとしたが、母は「命を繋ぐ」ために清佳を助けるよう諭した。そして母が亡くなり、清佳が助かった。


ルミ子たち一家は誠己の実家に入り、義母の世話になった。義母は性格が強くとても我儘な人、全てについてルミ子につらく当たったが、誠己は知らぬ顔。ルミ子は耐えに耐え、清佳にも義祖母に従うよう言い聞かせた。


清佳は学校帰りにたまたま父を見かけ、貸家にしている亡くなった祖母の家で不倫していることを知った。口論になった女から、祖母が亡くなった原因は、清佳を助けるために自殺したことだと知らされた。


茫然自失の清佳は漸く家に帰りついた。門前で母に迎えられそのことを口走ると母は走り寄って清佳を抱きしめた(清佳は、母が首を絞めた、と捉えた)。清佳は母の腕を逃れ、庭の木にロープを掛けて首を吊ったがロープが外れ、危うく命を取り留めた。


〔時を現在に戻して〕

教師となり、結婚した清佳は妊娠したことを知り、母に連絡した。母から「おめでとう、私たちの命を繋ぐ人ができたのね」と温かい言葉があり、清佳は心が和んだ。


ルミ子は、認知症が進んで寝たきりの義母の介護に忙しい毎日を送っている。義母はかつてルミ子を苛め抜いたことは忘れ、ルミ子を頼りきって生きている。


◆感 想

本作品は「母と娘の思い違い」がテーマになっており、心理描写がとても重要になっている。母・ルミ子を演じた戸田恵梨香と娘役の永野芽郁の、表情、声色、目線などの演技がとても印象に残った。


母と娘のすれ違う視点。同じ出来事を回想しているはずなのに、母は「娘を抱きしめた」が、娘は「母に首を絞められた」と捉える。ルミ子が信じる「無償の愛」は、清佳にとっては「刃を隠した愛」だった。


「折角やってあげたのに」、相手は「余計なことするな」と受け取っていることがよくある。『真実』とは、それぞれの感情や思い込みで歪む不確かなもの。芥川龍之介の「藪の中」的なミステリー風に仕上がっている。それがこの作品を魅力だと思う。


作品の最後で、ルミ子が認知症で寝たきりの義母を親身に面倒を見ていた。「娘」のルミ子は実母が亡くなると、代わりにあれだけつらく当たり苛め抜いた義母を実母と同じように世話をしている。


この場面を見てホットした。作品では「女性は子どもを産んでも必ずしも母性が芽生えるわけではない」と強調しているが、一方で、ルミ子が義母を献身的に介護する姿を映し出して、「子ども」以外への「無償の愛」を示している。


「母性」の特性である「無償の愛」は、より広く全てを対象に「見返りを求めず、無条件に愛し護る」と考えてよいのだ。


2022.12.05観賞

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