人生の余り道  (時の足跡)

ドライブマイカー

◆スタッフ

監督脚本 : 濱口竜介

原  作 : 村上春樹

キャスト : 家福悠介:西島秀俊

家福 音:霧島れいか

みさき :三浦透子

高槻耕史:岡田将生

パク・ユリム(韓国の女優)

ソニア・ユアン(台湾の女優)

◆あらすじ
ドライブマイカー

舞台俳優であり演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と満ち足りた日々を送っていた。二人の関係は、長女を4歳で亡くして音が激しく落ち込んでいた頃から、二人が愛を確かめ合うと音が物語を語り、それを悠介が書き残す習いになっていた。


ある時それを作品として応募したところ入選、音は元気を取り戻して脚本家として復活した。音は、悠介が出演中の演劇を観た後に控室を訪れて、自分の作品に出演中の若い男・高槻を紹介した。


悠介は長期出張で家を出たが、途中で予定変更の連絡が入り自宅に戻った。ドアを開けると音の喘ぎ声が室内に響き、見知らぬ男と抱き合っていた。悠介はそのまま静かに家を出て、近くのホテルに泊まった。


1週間後に仕事を終えて家に戻ると、二人は時間を惜しむように抱き合い、終わるといつもどおり音の物語があった。翌朝、音から「あとで話がある」と告げられた。不審に思ったが、夜遅く帰宅すると音が居間で倒れていた。くも膜下出血だった。


2年後、喪失感を抱えながら生きてきた悠介は、チェーホフ作品の演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かった。広島では寡黙なみさきがサーブの専属ドライバーになった。オーディションに高槻も応募しており、主役として採用された。


悠介は、音が脚本作品の出演者と度々関係を持っていたことを知っていたが、自分たちの関係を壊したくない一心でその問題を避けた。稽古を続ける間に、高槻から度々音に関する話題を持ち掛けられた。高槻は、音の本心は心の深い闇を悠介に直接聞いてほしかったのだと悠介を責めた。


ある時悠介と高槻が隠し撮りされ、高槻がその男に殴り掛かると、悠介が間に入って止めた。再び二人が会った時にまた同じことが起き、悠介とみさきが目を離した隙に高槻が男を追いかけた。


その数日後、舞台稽古をしている時に高槻が殺人罪で逮捕された。高槻が殴った男が病院で亡くなったという。公演を中止するか悠介が代役を務めるかの選択を迫られた悠介は、数日の猶予を貰ってみさきの生まれ故郷の北海道にサーブで向かった。


地震で壊れた廃墟を前に、みさきは母から虐待を受けていたことを告白し、地震で壊れた家から自分は脱出できたが、閉じ込められた母が第2波で潰されるのを放置し、結局自分が殺したことを明かした。


一方悠介も、音が「話したい」と言った時にそれを聞くことが恐ろしくてサーブで走り回って帰宅時間を遅らせた。真摯に音に向き合うべきだった、取り返しのつかないことをしたと悔いた。


公演は悠介の代役で上演された。手話で語る相手女優が素晴らしく、言葉よりも感動を呼び起こし好評だった。

韓国にいるみさきは、スーパーマーケットで日用品、食糧を買いサーブで家路についた。

◆感 想

上映パンフレットを見た時すぐに観たいと思ったが、村上春樹の小説が原作だと知って難しいかなと思って二の足を踏んでいた。上映終了時期が迫り、急かされるように観に行った。3時間を超える大作だが、劇中劇を絡めた脚本は新鮮で面白く時間を感じさせない展開だった。


出演者がとても個性的に描かれ、タイプの異なる韓国と台湾の女優も魅力的だった。作品の進行も前半は全般的にモノトーンで展開したが、中盤以降の高槻が音の本心を明かすあたりから台詞に緊迫感が生まれ、思いもせぬ展開に移っていった。


中盤のかなりの時間を費やして描かれる稽古の場面では、演出家・悠介の指示で台詞を単調でゆっくりと何度も繰り返す様子が、こうした劇団の稽古風景を垣間見ているようで面白かった。


実は音には秘密あり、女子高生(音)が恋人の家に侵入して殺人を犯したが闇に葬られたと、いつもの口調で高槻に話したという。高槻がサーブの車中で悠介にこの話をするシーンが圧巻だった。高槻は知らない振りをした悠介を責めた。


いつもは後部座席に座る悠介だったが、その話のあと初めてみさきの隣の助手席に座った。場面が一挙に変わって、サーブがみさきの故郷の北海道に向けて走り抜け、悠介とみさきはお互いに赤裸々な心の内を吐露しつつ劇的なクライマックスを迎えた。


本作品には当然人物としての主役があるが、同様にサーブも立派に主役を務めている。赤いサーブは室内の悠介と音の単調なセリフ練習に添えるように軽快な音を響かせ続けていた。


大事な伏線がいくつもあった。妻の名前が「音」というのも珍しいし、舞台の最後の手話のシーンでは「音がない」ことで感動を呼び起こした。そしてサーブの元気を揺り起こすような「軽快な音」、みな意味を持っていたのだと気付いた。


理解しあうのに言葉(=音)が大切だけど、音(=言葉)がなくても十分に気持ちが通じると言っているのだと思った。迷ったけど観てよかった。でも村上春樹の小説を読む気持ちにはなっていない。脚本が評価されたのだろうから。


2021年第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門:脚本賞(日本映画初)

国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の3つの独立賞も受賞した。


2021.09.19観賞

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