A 人生の余り道    
人生の余り道  (時の足跡)

プロミスト・ランド

スタッフ

監  督 : ガス・ヴァン・サント

キャスト : マット・デイモン (スティーヴ・バトラー : 大手石油会社社員)

フランシス・マクドーマンド (スー・トマソン : スティーヴの同僚)

ハル・ホルブルック (フランク・イエーツ : 老科学者)

あらすじ

eiga_14.10promise.jpg(15359 byte)

デイモン扮する主人公スティーヴは、大手エネルギー企業の幹部候補生。シェールガスの埋蔵量が豊富な農村地帯にパートナーのスーと共に乗り込んで、地元の牧場主らを回って採掘権の確保を試みる。順調に見えた説得作業だったが、開発の弊害を説く老科学者の呼びかけで住民投票によって決められることになった。そしてほどなく環境活動家も乗り込んで来たことで説得の行く手を阻まれる。


採掘権を与えるかどうかで揺れる農場主たちの葛藤を織り交ぜて、会社利益第一の猛烈社員のスティーヴが、図らずも自分の生き方を見つめ直す必要に迫られる。



感  想

シェールガスは効率的な採取方法が開発されたことで、世界のエネルギー地図を塗り替える可能性を秘めている。広大なアメリカの大地に豊富に埋蔵されており、国の経済や財政に多大な恩恵をもたらす天然エネルギーと考えられ脚光を浴びている。しかし一方で、水質汚染などの環境面の弊害も懸念されることから、シェールガスは得るものも大きいが、もしかしたら失うものも大きい。こうしたことを背景にこの映画が製作されている。

シェールガスについて


自分自身が貧困農村出身で、シェールガス開発が農村を活性化すると信じている主人公が、経済的な困窮にあえぐ町の人々との交流、現地の科学者やライバルの環境活動家との戦いを通して、真実に近づいていく様子を描き出している。特に、自国の環境や農民をも食い物にするアメリカという国・企業の貧欲さと、反対派である環境活動家との対決の意外な結末も、いかにも貪欲なアメリカ企業らしさが描かれていて納得させられるものがあった。


時間を惜しんで奔走する主人公たちの説得活動の一方、田舎町の牧歌的な生活風景、水と緑に恵まれた自然や動物たちを空から俯瞰する映像を映し出すことによって、より大きな視点で考えることを暗示することで、地上の争いを中和して観る者の気持ちを穏やかにする効果を上げている。更に採掘の賛否を問う住民投票が行われる会場の体育館で、たった25セントのレモネードを売る名もない少女と巨大企業のエリート社員とのほんの数十秒間のやりとりに、この映画の穏やかで素朴な美しさが凝縮されているように感じた。


映画では、賛否の論争も、「全くの安全なものなら、都会のど真中にも掘ればいい。問題が起きた時には、その田舎だけにすべてを押し付ける」との農民の反論に対して、「田舎の自然を守ると綺麗ごとを言っているが、それは国の手厚い補助金で漸く成り立っていにすぎない。今が自立するチャンスなんだ」とスティーヴが説得するなど、シェールガスの採掘について賛否両方の立場からいくつかの問題点を指摘しているが、決してどちらかだけに肩入れすることなく、両者の意見を中立的に紹介する姿勢をとっている。


環境活動家を追及することで会社のやり方を知ったスティーヴは、住民投票が行われる体育館で、環境活動家が使用した資料が嘘であったことを告げるとともに、シェールガスの採取が必ずしも安全が保障されたものではなくリスクを伴うことも正直に話した。その結果がどうなったかは映画では直接語られてはいない。ただ、スティーヴは会社から解雇され、スティーヴたちに協力的だったある商店主の「投票は棄権するよ」との言葉を流すことで、開発の是非の判断を映画観賞者にゆだねている。


2014.10.12観賞

inserted by FC2 system