人生の余り道 (時の足跡)

ペロブスカイト太陽電池 (2)


日本における開発の状況

◆実用化は「2025年頃」

ペロブスカイト太陽電池について、中国などの既に販売を開始している企業もあるが、日本国内では実証実験段階の企業が多く、市場に出始めるのは「2025年ごろ」が最短になると考えられる。


◆積水化学工業

フィルム型ペロブスカイト太陽電池に、液晶向けの封止材などの技術を応用して10年の耐用年数を実現、また、最近「2025年までに20年の耐用年数を実現する方針」であると発表している。


積水化学工業・ロールtoロール

製造効率の高い「ロール・ツー・ロール方式」


30センチ幅の複数のドラム・ロールで製品を送りながら印刷や塗布をおこなう方法で、連続生産が可能になり、耐久年数約10年、発電効率15%の製造に成功している。


左の写真は、積水化学工業が開発したフィルム型太陽電池の製造風景



◇さまざまな施設での実証実験

・ 大阪本社ビルに自社開発のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を実装。建物外壁への常設設置としては国内初の導入事例になる。(2025年完成予定)


・ 東京都千代田区の「内幸町第一種市街地再開発事業」で建設されるサウスタワーの壁面に ペロブスカイト太陽電池を設置し、「世界で初めてのメガソーラー高層ビル」の建設を進めている。(2028年完成予定)


・ 東京都下水道局森ヶ崎水再生センターにて、23年5月〜25年12月の予定でフィルム型ペロブスカイト太陽電池の国内最大規模(9平方メートル、1kw)の検証を行っている。


◆東 芝

ペロブスカイト太陽電池の変換効率の世界最高値は、現在22.7%でシリコン系に迫るものの小サイズ電池の記録だ。実用化には大面積化の必要があるが、大型化すると効率が下がってしまう。


フィルム型ペロブスカイト太陽電池

東芝は2018年に、2ステップのメニスカス塗布印刷技術を用いて、受光部が約703平方センチで、変換効率14.1%のペロブスカイト太陽電池を開発した。


更に2021年9月には、1ステップの新たな成膜法を開発して、同じサイズを維持しながら世界最高レベルの毎分6メートルの速度で変換効率15.1%を達成した。


左の写真は、大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池の外観



◇今後の展望

受光部サイズが900平方センチなど、さらなる大面積化に取り組むとともに、変換効率として20%以上を目指す。これによって、ペロブスカイト太陽電池の製造コストを、ワット当たり15円としたい考えで、25年の製品化を目指している。


◆アイシン

フィルム型のペロブスカイト太陽電池は水分と酸素に弱いために耐久性に弱点を持っているため、酸素や水を通しにくい「薄型ガラス」を採用して、20年以上の耐久性を目標に開発を続けている。


また、均一に塗布するスプレー塗装の技術を用いて、変換効率を30cm角で13.08%を達成した。更に、材料や工法の改良によって、大面積の量産を実現するとともに、鉛を使わない素材の開発を急いでいる。


◆エネコートテクノロジーズ(京都大学のスタートアップ)

エネコートは、7.5センチ角の大きさで、フィルム型では16.9%、ガラス型では19.2%の変換効率を実現しており、IoT機器、建築物などへの展開も念頭にペロブスカイト太陽電池を開発している。

また、毒素の強い鉛に代わってスズ系の材料を使用し、変換効率 11.5%を実現した。


◇エネコートとトヨタ自動車

トヨタ自動車は、23年発売のプリウスに、オプションとして屋根に1平方メートルのシリコン製パネルを実装して、年間約1200km走行分の電気を発電している。


ペロブスカイト太陽電池をボンネットなどに置いて面積を2倍に増やせば、約3倍の年間約3600km走行分を発電できる。一般的な自家用車の年間走行距離は1万kmとされるので、年間の1/3の走行距離の発電が可能になる。


両社は共同で車載用ペロブスカイト太陽電池を開発して、30年までに発電効率を最大で5割高めるとともに搭載面積を2倍に増やして、近距離ならばほぼ充電不要の電気自動車(EV)を実現する計画である。


そのためには、車載用で求められる数十センチ角の大型品の生産と、ペロブスカイト結晶の膜を均一に広げる技術や製造設備、車の振動や雨に対する耐久性の向上が求められる。


◆パナソニック

ガラス基板を用いて住宅建材と組み合わせた「発電するガラス」としての事業を進めるとともに、都市部以外の地域における電力の地産地消を推進して、災害時などの電力供給システムの強靱化を図る。


パナソニックは、インクジェット・プリンターを応用してガラス表面に均一に塗る技術を持つ。800平方センチ以上の実用サイズのペロブスカイト太陽電池で変換効率17.9%と、23年7月に中国の極電光能の18.6%に抜かれるまで世界首位だった。


バルコニーへの設置

23年8月、神奈川県藤沢市のモデルハウスで左の写真のように、バルコニー側面部のガラスにペロブスカイト太陽電池を組み込む実証実験を始めた。


オフィスの窓や商店街のアーケードの天窓など、ガラスが使われているところ全てがペロブスカイト太陽電池の設置対象になり得る。


実用化のためペロブスカイト太陽電池の課題とされる耐久性の向上にも取り組み、2030年にはシリコン系太陽電池と同等の発電コスト(14円/kWh)の達成を目標としている。


◆桐蔭横浜大学

09年にペロブスカイト太陽電池を開発した宮坂教授が在籍する大学で、ベンチャー企業「ペクセル・テクノロジーズ」を立ち上げ、ペロブスカイト太陽電池の成膜を安定させる自動化技術を開発している。


従来は基盤としてガラスしか使えなかったが、特殊なインクジェット・プリンターを使用してフィルムに塗布することで、安価かつ容易にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を作製した。同手法としては世界最高の変換効率15.0%を達成した。


現在、汎用幅と想定している1m幅での製造プロセスの確立、耐久性や発電効率の更なる向上、人体に有害な鉛に代わる素材としてAgBi2I7(銀の化合物)に注目して課題に取り組んでいる。 


◆東京都市大学
ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池

ペロブスカイトとシリコンによる「タンデム型太陽電池」では、30%以上の変換効率が達成されているが、シリコンが200μmの厚さがあるため、曲げることができない。


東京都市大学・石川教授は、83μm厚の薄いシリコン上に1μm厚のペロブスカイト太陽電池を塗布することで、「ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」を開発、柔軟性と軽量化を図るとともに、変換効率の26.5%を達成した。


今後は、界面の改善や両面受光構造の導入により、さらなる変換効率の向上が見込め、最終的には35%以上の高効率を目指している。


◆電気通信大学

鉛に代わってスズ系素材を使用するペロブスカイト太陽電池として、世界最高の13.2%の変換効率を実現している。


◆日本政府の取り組み

政府はペロブスカイト型を脱炭素戦略の柱の一つに位置づける。日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を主な材料にしているため資源を安定的に確保しやすく、ペロブスカイト型で主導権を握れれば、経済安全保障の強化も見込める。


シリコン系太陽電池では、当初日本勢が世界シェアの過半を占めたが、最終的に中国との価格競争に敗れた。ペロブスカイト太陽電池においても中国に追い上げられているが、基礎研究段階の品質や素材技術では日本勢に優位性がある。


経済産業省は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)でペロブスカイト太陽電池を優遇、民間投資を促して日本の再生エネの拡大につなげたいと考えている。


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