人生の余り道 (時の足跡)

ペロブスカイト太陽電池 (1)



薬品が塗られたフィルム型の太陽電池をテレビなどで観たことがあるが、昨年(2023年)暮れのノーベル賞の際、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授がペロブスカイト太陽電池の発明者として有力な候補者になっていることを知った。


現在主流の太陽電池は「シリコン系太陽電池」で、中国が約90%のシェアを占めている。シリコン系太陽電池は、耐久性に優れ、変換効率も高いが、重量があるため設置するためには平坦地で大規模な設備が必要となる。


国土の狭い日本では丘陵地に設置した発電設備にまつわるトラブルが相次いでいる。日本の平地面積当たりの太陽光発電導入量は主要国では突出して高く、中国の14倍、米国の31倍となっており、設置場所の確保が課題となっている。


そこで期待されているのが、次世代型太陽電池としてのペロブスカイト太陽電池である。

◆シリコン系太陽電池に対するペロブスカイト太陽電池の利点

1) 低コスト化が見込める

ペロブスカイト太陽電池は、フィルムなどに材料をインクジェット・プリンターで塗布・印刷して作ることができる(ロール・ツー・ロール方式)ので、製造工程が少なく大量生産ができるため、シリコン系の半分以下のコストと見込まれている。


2) 軽くて柔軟

ペロブスカイト太陽電池は小さな結晶の集合体が膜になっているため、重さ10分の1、厚さ20分の1で、折り曲げやゆがみに強く軽量化が可能になるため、都市部のビルの壁面などの新たな発電場所を開拓できる。


3) 主要原料は日本国内で安定的に確保できる

主な原料であるヨウ素は、日本が30%のシェアを持ちチリに次ぐ世界第2位の生産国、さらに推定埋蔵量は世界1位で78%のシェアを占めており、経済安全保障上も有利となる。


4) 弱い光でも発電できる

シリコン系では、約10万ルクスの高照度の光が無ければ発電できないが、ペロブスカイト系では1000〜200ルクスといった低照度でも発電できる。

そのため、朝夕や曇りや雨天などの日や、室内のLED照明などでも発電できるため屋内のIoT機器の電源など、さまざまなシーンで活用できる。


◆ペロブスカイト太陽電池の弱点

1) 寿命が短い

シリコン系の約20年の耐久性に対して、構造上水分や酸素に弱いため現在のところ約10年の耐久性となっている。保護材の開発によって研究室レベルでは約20年の耐久性を得ているが、実用的なレベルには至っていない。


2) 安全性に課題がある

ペロブスカイト太陽電池原料である「ヨウ化鉛」や「ヨウ化メチル」は、人体に対して有害であるため、鉛に代わる原料の研究が進められている。

横浜桐蔭大学では、銀系の「AgBi2I7」で代替する研究が進められており、京都大学ではスズ系の材料を使用して変換効率11.5%を実現している。


3) エネルギー変換効率の更なる向上

シリコン系の変換効率が26%程度なのに対し、ペロブスカイト系では最高25%の変換効率をあげているが、これらは実験室レベルの成果である。

30センチ幅のフィルム型ペロブスカイト太陽電池では約15.0%の変換効率を達成しているが、これを1メートル幅の実用的なフィルム型で実現する必要がある。


4) 大面積による生産の実現

汎用品としては車載用であれば数十平方センチ、フィルム型であれば1メートル幅での大型品を生産する必要がある。このため、ペロブスカイト結晶膜を均一に広げる技術や製造設備、車の振動や雨に対する耐久性の向上が求められる。


◆多種多様な分野での市場拡大

1) 軽量でフレキシブルなので、都市部のビルの壁面や地方都市の小規模工場の屋根などにも設置が可能、更に大量生産で価格が下がれば農業用ビニールハウスや個人住宅に設置して電力の地産地消に貢献できる。


2) 屋内・小型タイプは、風雨などの影響を受けないので、IoTデバイスなど比較的小型の機器類に貼ることができ、新たな市場への展開が期待できる。


3) 超高効率型は、交通や航空、宇宙開発など設置面積が制限されるが高いエネルギー密度を必要とする分野での将来的なニーズが高い。


◆感 想

本記事を書いているさなか、積水化学工業が数社と協力して、浮体式太陽電池の実証実験を始めたと4月5日に発表した。ペロブスカイト太陽電池の軽さを生かし、都内の廃校のプールを使って1年間実証実験するという。


シリコン系の太陽電池では大型の設備が必要だったが、軽いペロブスカイトの特徴を生かした素晴らしい方策だと思う。狭い国土の弱点を補ういろいろな方法が考案・試行されているのが嬉しい。


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