人生の余り道  (吹矢を楽しむ)

理論編

スポーツ吹矢の基本動作は、日本スポーツ吹矢協会監修の「スポーツ公式吹矢ガイドブック」に基づいて行うが、この理論編ではガイドブックに記されていない事項や、弓道や射撃に関する自身の経験に基づくガイドブックと異なる事項について記述する。

矢の速度と矢道の関係

矢道

強い矢Aは命中精度が高く
弱い矢Bは的位置で落ちる

矢は、重さ0.8グラムに比して太さは約13ミリもあるので、筒を飛び出した矢は空気抵抗で消耗し、的付近では放物線状に落下する。弱い矢(B)は的の位置では落下量が大きく、命中精度が落ちる。一方、強く吹かれた矢(A)は落下量が小さいため命中精度が高い。

従って、できるだけ強く吹いて矢が落下し始める前に的に当てることが望ましいが、強く吹くほど上体が揺れて矢がブレるので、筒が揺れない程度の力で吹かなければならない。

姿勢・構え

腕の支え

腕の支え

深い半身では下から支え、筒は安定

的に対する体の開きの度合い、即ち半身(はんみ)の度合いによって筒を支える左前腕の角度が変わる。

B : 浅い半身では体が的に向いている度合いが大きいので、その分上腕と前腕を体の正面に持ってくる必要が生じ、前腕が斜めになって筒が揺れやすくなる。

A : 深い半身(約45度)では前腕で筒を下から支える形になり、更に軽く脇を絞めることによって体全体で筒を支えることができるので、筒の揺れを少なくすることができる。

注:肘より体に近い方を「上腕」、手首に近い方を「前腕」という。

自分に適した体の開き具合を把握する方法は、脇を絞めた構えで的を狙い、目を閉じて吹く。吹いた直後に薄く目を開けて筒の方向を確認する。この時の筒のぶれる状態で構えを修正する。

吹き方

腹式呼吸の重要性

胸式呼吸は、胸の筋肉を動かして肺に空気を取り入れるので、そのままの状態で強く吹けば、上半身全体が動いて筒が揺れてしまう。一方、腹式呼吸は、胸から遠い横隔膜を上下に動かして空気を出し入れするため、胸を動かすことなく吹くことができるので、上半身の動きを抑えることができる。


胸式と腹式の呼吸について「基本動作の解説」では『息は実際には肺に入るのですが、腹に溜めるような気持ちで吸い込みます。この腹とは、昔から「丹田」と呼ばれている「へその下あたり」のことです。心身の力を集める重要なところです。』と書かれている。


「吹く」ことの最も重要な部分で、具体的には、胸式呼吸によって体全体で十分に空気を吸い込み、次にその空気を肺から下腹の丹田に落として、丹田で太鼓をたたくように一気に息を吐き出す。これによって、上半身の動きを最小限に抑えて強く吹くことができる。

一気に吹くことの重要性

命中率を上げるため矢を勢いよく飛ばそうとして強く吹きすぎると、腹式呼吸であっても筒が揺れる危険性が高くなる。従って、筒を揺らすことなく強い矢を飛ばすためには、吹く力を効率よく矢に伝えなければならない。

矢の速度は、一般的には150キロ/時ぐらいだといわれている。計算上120キロ/時と仮定すると、矢が筒を通過するのに要する時間(X)は、筒の長さ÷矢の速度 だから

X=1.2m÷(120000m÷3600秒)=0.036秒≒0.04秒


矢に加わる力

0.04秒以内に吹き切る


矢は0.04秒で筒を出てしまうので、それまでに吹く力を矢に伝えなければならない。0.04秒より長い時間かけて力を加えてもその力は無駄になる。つまり、同じ速度の矢を飛ばすのであれば、弱い力でも0.04秒で吹き切れば、長い時間をかけて強い力で吹く場合と同じ効果を上げることができる。




狙い

半身と狙いの関係

半身と狙い

顔の向きと筒の方向は一致しない


左の写真は、約45度の半身で構えている状態を下から写している。この時、顔を的に向けたとしても45度捩じることは難しく、筒の方向と顔の方向にはずれが生じており、目玉を動かすことでこのずれを補っている。即ち、顔と的が正対していないので左と右の目では的との距離に微妙な差が生じている。

左右の目線 筒の見え方

左の図は、的と左右の目の位置関係を示したものだが、筒の先端を見通して的を見たときに、左右の目と的との距離が異なっているので、的中央と筒先との距離も異なって見える。筒先は、右目では 的の中心に近く、左目では的の中心から遠くに見える。その状態を示したものが右の写真である。

狙い方

「基本動作の解説」には、狙い方について『片目で的を狙うことはしません。あくまで両目で的の中心を見ます。』と書かれている。しかし、両目で狙う理由及びその方法については何も説明がない。そこで、以下自分なりの考え方について記述する。

狙い方2

的に焦点を合わせると筒はぼやける


左の写真は両目の焦点を的に合わせた時の状況で、的は明瞭に見えるが、手前にある筒は輪郭がぼやけて見える。上述したように、左右の目では筒先は的の中心からずれて見えているので、そのずれ分を加味して狙わなければならない。


10メートルの距離では、筒先の1ミリのずれは的では1センチの誤差になる。筒の輪郭がぼやけている状態で、1ミリの誤差をも許さない精度で狙うことはとても難しい。



狙い方1

筒先に焦点を合わせても的はぼやけない


左の写真は右目の焦点を筒先に合わせた時の状況で、筒先は明瞭に見えるが、遠くにある的は少しぼやけて見える。しかし、このぼやけ具合は、目の特性上、上記のように的に焦点を合わせた時の筒先のぼやけほどではないため、格段に狙いやすい。

ただし、吹矢では目が筒の軸線上にはないので、その分筒先を的の中心から外れたところに合わせて狙うことになる。

ところで大切なことは、右目で狙うからといって決して左目を閉じてはいけない。それは半眼にした左目で的周辺を見ることにより視野が広くなり、精神的な安定感を得ることができるからである。

射撃と弓の狙い

「狙う」ことについて、同じ的当て競技としての射撃や弓道では、自分自身の体験と研究に基づいて述べると、いずれの場合も両目を開いて狙っている。しかし、決して両方の目で的を見て狙っているわけではない。


射撃では、照門という直径約3ミリの小さな穴を覗いて狙う。両目で狙うことは物理的に困難であるため右目で狙うが、この時、左目は半眼にして的周辺をそれとなく見て、安定感を得るとともに状況の変化を確認している。つまり、両目を開いているが左右の目は異なる役割を担っている。


弓も同じように効き目の右で狙う。(稀だが、左目が効き目の人は右目に矯正する。)弓では矢道上に的を見出すため、的が弓の陰になって見えないことがある。これを補うため、左目は弓を避けて的を浮き上がらせており、これによって右目で狙うことが可能になっている。

残心・残身

多くの場合、吹いた瞬間に筒が動いてしまう。これは、的に意識を集中しているため筒先がずれやすい(ずれていることに気づかない)ことに原因がある。筒の動きを抑制するためには、狙いに続いて吹く瞬間も、的ではなく筒先に意識を集中することが重要である。


吹矢では、正しく狙っているつもりでも思い通りに狙えているとは限らないので、吹いた直後の姿勢を保って筒先がどこに向いているかを確認し、次いで目の焦点を伸ばして矢がどこに当たったかを見る。筒先が右に動いたと感じた時に矢も右に当たっていたら、狙いは間違っていない。逆に筒先が右に動いているのに矢が左に当たれば狙いが間違っていたことになる。


「残心・残身」 は大変重要な動作であって、吹いた直後の瞬時にこうした判断を行うことによって次の矢を正しく吹くことができ、かつ筒の動きを最小限にして基本動作をより美しくすることができる。

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