人生の余り道  (吹矢を楽しむ)

「スラムダンク勝利学」を読んで


本書は、著者のスポーツドクター・辻秀一が、井上雄彦(たけひこ)が書いたバスケットボールを題材にした漫画「スラムダンク」に描かれたスポーツの素晴らしさを、より多くの読者に伝えたいとの思いで著した本であり、私が大きなスランプに陥っている様子を見た知人が、参考になればとして紹介してくれた。

「迷ったときは初心に戻れ」と言われる。団体競技と個人競技との差はあるが、バスケットボールでも基本は個人の技量が確立することによってチームプレイとしての総合力が発揮できるのだから、本書に記された個人の心技練磨に関することについてはとても参考になった。


◆目標を明確に持つ

自分で考えた主体性のある目標を立て、目標を達成した時の姿・形をイメージする。目標を立てることによって「すべきこと」が明確になるので、日々の練習に活力が生まれ集中力を高めることができる。そして、目標を達成した時の素晴らしさがわかれば、日々精一杯努力するようになる。


◆心技の変化を見つけ出す

練習の過程の中で勝利するために必要な自らの変化を見つけ出すことが大切である。変化を感じる能力、変化を楽しむ能力こそが、結果を得るための基本である。出来なかった時にはそれで終わるのではなく、その時点で既に出来ている変化と、まだ変化しきれていない部分を見つめなおす。そうした考え方を習慣化する。


勝利とは、相手を打ち負かすことではない。自分自身について今まで以上のもの(変化)を発見して、その経験を通して勝つための、より完璧な行動パターンや考え方を見つけ出すことが重要である。結果に一喜一憂するのではなく、そこから何を学び、どのように変化したかに気付くことが大切である。


◆するべき事をする

目標を立てたら、次にその目標を達成するために『するべき事』をしなければならない。大事な1本の時に『するべき事』は、いつも通りに吹くことであって、外すことをイメージすることではない。それを普段から実行していなければ、試合の緊張し緊迫した場面で『するべき事』に集中することなど出来るはずはない。


◆"今"に生きる

大半の人は自分がプレーしている時、過去や未来のことが頭を駆け巡っている。「さっきの矢が中っていたなら」とか、「外れたらどうしようか」といった消極的な意識の持ち方が気持ちを萎縮させ、実力を発揮できなくしている。


どうすればよいか。外したことの後悔や、中るだろうかといった不安を気にするのではなく、いつも一瞬一瞬の『今するべき事』に集中しなければならない。


◆現在位置を知る

試合は、自分にとって最良の状態で勝負しなければならない。指導者や仲間の助言などによって、自分の精神的、技術的な良いところをしっかり認識すると同時に自分の問題点も認識することで、自分の現在位置を知ることができる。その現在位置は常に変わっていく。自分の進歩や時間経過に伴う現在位置を繰り返し確認する。

その後に、摘出した問題点をどうやって解決するか、その方法を考えることが最も大切である。


◆情熱の伴わない目標は実現しない

目標に情熱を注ぐことによって、現在位置と目標を結ぶビジョン(道のり)が明らかになり、道があるからこそ、目標に向かって前進することができる。目標達成の過程が好きであれば好きであるほど情熱が溢れ出てきて、その道のりを楽しむことができる。

最終的に目標達成によって得られるもの、それは、感動であり、自信であり、誇りである。


◆あとがき

著者はあとがきで、「勝つ」について次のように書いている。

いかなる時にも自分らしく力を発揮して、自分にふさわしい結果を得ること。勝敗に一喜一憂することはない。結果は常に決まっている。それは、自分にふさわしい結果しかない。


「自分らしさ」への追及・努力・向上、そしてそれを「本番で発揮する」ための生き方・考え方こそに勝利の原点がある。勝つ事と負ける事は表裏一体をなし、ともに人間を成長・向上させるためのもので、そのヒントこそが財産である。


真に自分にふさわし結果を手に入れるがために、スポーツを通じて心技体すべてにわたって自己向上する、それがスポーツの素晴らしさである。

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