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人生の余り道  (時の足跡)

ハードウェアハッカー     著者:アンドリュー"バニー"ファン

訳:高須正和    技術評論社

あらすじ

深センは小さな漁村から僅か30年で人口1,400万人の大都市に進化した。中国全土から意欲的な若者が集まり平均年齢は32歳、65歳以上の高齢者は2%しかいないという。整然とした街はキャッシュレス化が進んで非常に活気があり、「世界の工場」とも言われて今や域内GDPでは、隣接する香港を上回わったという。


本書では、世界的なハードウェアハッキング※1の第一人者である著者・バニーが、この深センを舞台に、これまでの常識を超えて、自らの手で新しいものを生み出していくための考え方や仕組みを解説している。深セン流のビジネスの仕組みや知的財産の考え方、ニセモノ製品の裏側、子供でも作れるシール式電子回路など刺激的な話題を網羅している。


1ハッキングが一般的にはコンピュータのソフトウェアを対象とするのに対して、電子機器などの既存のハード機器を改造して、機能を向上させたり、革新的な器材を生みだしたりすることをハードウェア・ハッキングという。


副題に「新しいモノを作る破壊と創造の冒険」とあるように、著者は、技術革新に関して、オープンソースがとても有効で、将来的な可能性に満ちていると語っている。オープンソースでは、ソフトもハードも設計図を無償で取得できて誰でも自由に改良・再配布ができる。 対して、一般的なソフトウェアはその設計図を公開することはなく修正もできない。使用するには利用料が発生する。


バニーは、誰でもが既存の商品や機能を利用して、特許権の侵害にならないようなオリジナルの商品を作り出す方法を実践した。部品表から要求性能を満たしつつ極めて安価な部品やユニットを選び、オープンの技術情報から適切なものを組み合わせて設計図を描いて、僅か12ドルで高性能の携帯電話を作り出した。


西欧式の知的財産の仕組みでは、知的財産は権利者に囲い込まれて他者は利用できず、権利者だけに莫大な利益をもたらす。しかし、深センなどモノ作りの現場では知的財産の制約はかなり緩く、ニセモノを生み出す副作用を伴いつつも驚異的な技術革新を可能にする情報化社会のあり方を示唆している。


感 想

「ハッカー」という言葉は、相手のコンピューターに侵入して情報を抜き取るなど「闇の世界」の言葉と考えていたが、本来は様々なものを分解又は破壊して、その仕組みや性能を理解しようとする人たちのことだということは理解できた。しかし、本書にはたくさんの専門用語が使用されており、ITに疎い者にはかなり難解だ。


要は、小さな子供が目覚まし時計や動く玩具に興味をもって、すぐに分解して中を覗くのと同じなのだ。昔、小学生のころ、秋葉原に通って部品を買い求め、鉱石ラジオなどを作ったことを思い出した。「ハッカー」の要素は誰にでも存在するといえる。


ユーチューブで深センを覗いていたらこんな動画を見つけた。

元グーグルの技術者だったアレンが、秋葉原をはるかに凌駕する深センで、部品を買い集めてイチからiPhoneを作る一部始終を動画で公開している。

https://gigazine.net/news/20170413-making-own-iphone/


バニーもこのようにして12ドルの携帯を作ったのだろう。中国の若者が「英語」に臆することなく極めて生き生きと仕事をしている様子に、年配の私にはかつての若い日本を見るようでとても感動した。


中国では、知的財産に対する意識が緩くてドラえもんなどのアニメの偽物が頻発していた。そんな中国が、2017年6月に「国家情報法」を定めて、組織や個人などに情報収集を義務付けて知的財産の占有を試みている。世界中でハッキングによる情報活動は公然の秘密だったが、今や米国と中国が世界中の国々を巻き込んで、知的財産の保護に関して対立を深めている。


今年(2019年)3月6日、中国の通信機器大手「ファーウェイ」が、自社の製品の使用を禁じたのは憲法違反だとしてアメリカ政府を提訴し、その根拠として「裏付ける証拠がない」ことを挙げている。アメリカは「ウィキリークス」事件の当事者だったから何が可能かを十分に知っており、当然中国も秘密裏にハッキングしていると信じている。中国はアメリカが手の内を明かさないと分かっているから「証拠がない」と反論している。どこまでも平行線をたどるしかない争いなのだ。


2019.03.05読了

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