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人生の余り道  (時の足跡)

管見妄語 大いなる暗愚     藤原正彦著    新潮文庫


本書は、「週刊新潮」連載のコラム「管見妄語」の2009年5月〜2010年6月分をまとめたものであり、5章に分かれて歴史・日本・政治・人間・文化を扱っている。筆者独特の視点に裏打ちされた「知性」と「正義感」と「ユーモア」にあふれ、世間の悪しき流れをいさめる警句で満たされている。なお、コラム「管見妄語」については、本書と「始末に困る人」(2010年6月〜2011年6月分)の2冊が単行本として出版されている。


反自民のうねりの中で09年9月、民主党政権が誕生し「事業仕分け」で盛んに官僚を叩いた。筆者は嘆く。"国民"に迎合しないことが真の政治だ、この"国民"は今この国に住んでいる人々。しかし国家とはこれまでの国民、これからの国民のものでもある。従って、政治家の頭には"国民"ばかりでなく国家もなければならない。政治家には、行く先を明るく照らす言葉、大局観が欲しい。


政治が国民の目線に立ったら国は滅んでしまう。国民の判断力は常に低く、またその意見は気まぐれだからだ。本を読まない国民の目線とはテレビのワイドショーの意見といってよい。政治家の役割は国民の目線に立ったりその意見を拝聴することではない。そうした政治の現状を、愚かで物事の是非を判断する力がない「大いなる暗愚」であると断じており、本書の表題になっている。


アメリカの身勝手

留学・勤務経験があってアメリカへの造詣が深い筆者は、色々なテーマに交じってアメリカの「身勝手」について述べている。


・アメリカでは09年1月に「チェンジ」と「イエス・ウィ・キャン」のスローガンを訴えてオバマ大統領が誕生、その理想に世界は変化を期待した。しかしアメリカをよく知る筆者は、持ち前の正義感でその理想を厳しく評価している。トランプ大統領が「アメリカ ファースト」を唱えているが、アメリカの本質は以前から全く変わっていないのだ。


・自由貿易を標榜して日本の非関税障壁を非難したアメリカは、自国の景気対策法案にバイアメリカン条項を入れるなど、大統領自ら恥ずかしげもなく保護貿易を唱えている。


・日本がバブル崩壊で株や不動産が値下がりした時に、時価会計を押し付けられて一気に損失が膨らんで窮地に陥りハゲタカ外資に買われた。ところが今年(09年)4月、アメリカは膨大な不良債権にあえぐ大手銀行を救うため時価会計を緩和した。他人が困っている時には押しつけ、自分に火の粉がかかるとさっさと変更した。


・日本の護送船団方式は市場原理主義の障害になり米企業の参入を妨げるとして、アメリカは年次改革要望書で郵政改革や医療改革などの規制緩和を要求、小泉竹中(平蔵)内閣は唯々諾々と受け入れた。ところがリーマンショックでは自ら市場原理主義を捨て去って、破産寸前の大手金融機関やビッグスリーなど自動車産業に大量の公的資金をつぎ込んだ。


・日本長期信用銀行の破綻では、日本政府に国費8兆円を注入させて不良債権を処理させてから、アメリカの企業再生ファンド・リップルウッドなどが10億円で買収した。最終的な日本の国民負担額は4〜5兆円に達するとされている。


・アメリカの言う株主至上主義はモノづくり産業にはなじまない。株主とは、一般には短期間での株価の上昇を願うものだから研究開発などの長期的なことには反対する。GMは利益を求め金融に軸足を置いて研究開発を軽視してベンチャーに外注した。そして、石油高騰で燃費の悪いGM車が売れなくなったとき、政治家を動かして日本車をたたいて十数年にわたり自主規制を強制した。


2018.11.14読了

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