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人生の余り道  (時の足跡)

管見妄語 始末に困る人     藤原正彦著    新潮文庫

概 要

本書は「週刊新潮」のコラム「管見妄語」2010年6月から2011年6月の内容をまとめたエッセイ集である。この時期は、民主党の菅内閣が誕生、尖閣諸島で中国漁船衝突事件が発生し中国との関係が一挙に冷え込んだ時期であり、3.11東関東大震災が発生した。また、中国が日本を抜いてGDPで世界第2位となった年でもある。


従って、懐かしい時事ネタも多く、伝統を捨てた日本の教育に対する持論や外交の話題が多い。著者・藤原正彦は、首尾一貫、ぶれない人である。本書も「国家の品格」に著された国家観に基づいているので、安心感はあるが新鮮味はあまりないかもしれない。しかし、シリアスな論点を平易にかみ砕いて語ってくれるので読みやすい。


時事ネタ、教育・外交論などに交じって「父を訪ねる旅」や「雪を見ていると」といった父・新田次郎への尊敬の念がにじみ出る文章が混ざって、ほろりとする。また、愚妻だ小娘だと言いながら、隠しきれない夫人への愛情、息子さん3人も含めてホームドラマに出てきそうなやり取りが本当に微笑ましい。

始末に困る人

西郷南洲はこう言った。「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」。出でよ、「始末に困る人」。本書のタイトルはここからとった。

花見に出よう

桜を見ようと井の頭公園に行った。東京都が自粛を促しているせいか宴会が少ないが、今こそ花見で浮かれる時なのだ。被災地で必死の戦いを続けている人々への思いを胸に秘めつつ、酔って笑って気勢を上げる時なのだ。町へ買い物に出かけ、旅行に出かけ、外食すべきなのだ。国民が喪に服していることは、必要な税収さえ途絶えてしまい被災者のいかなる救いにもならない。

サル山のボス争い

近頃のテレビは国会のボス争いに夢中のようだ。新しく権力を握った民主党もかつての自民党と同じ、現在は小沢派による菅下ろしが真っ盛りである。外に目を向ければ重要なことはいくらでもある。多くの国にODA等で巨額の援助を与えているから、それが各国でどう使われているかなど、伝えるべきことがいくらでもあるはずだ。

感 想

中国へのODA援助

2018年10月25日に訪中した安部首相は、中国への政府開発援助(ODA)の終わりを宣言した。ODAは約40年で合計3兆6千億円の公費を投入した。中国への経済援助はODAだけではない。この他に旧大蔵省と輸出入銀行から「資源ローン」などという名称で総額3兆3千億円が供されており、援助総額は実際には7兆円に上った。技術移転を含めれば膨大な貢献となる。


日中友好の祈りを込めて供した血税は、中国国内では国民に一切知らされないまま軍拡に利用され、民主化や人権尊重にも配慮されなかった。その間「抗日」の名の下に日本への敵意をあおる宣伝や教育が激しかった。その中国がいまや経済大国、軍事大国となって覇権を広げ、日本の領土をも脅かす強大国家となっている。

注:詳しくは「中国」「ODA」で検索して下さい。


ミャンマーへのODA援助

「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーに対して巨額のODA援助を行っている。実はそのミャンマーに対して日本は平成25年だけでも5000億円の債権を放棄した(中国主導のAIIBについて3を参照)。しかも、ミャンマーの主要な貿易相手国は中国だ。中国を牽制するために行った日本の債務免除が、結果的にミャンマーと関係の深い中国を潤し、権益を拡大させている。


この傾向は他の債務免除国も同様で、例えば2011年度に900億円の債務を免除したコンゴ民主共和国でも結局は中国に利益をもたらした。ODA全体ではこの10年間で約2兆3000億円もの巨額の債権(即ち税金)を放棄している。

注:詳しくは「ミャンマー」「ODA」「債権放棄」で検索して下さい。


2018.10.23読了

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