人生の余り道  (時の足跡)

スマホを落としただけなのに

◆スタッフ

監 督 : 中田秀夫

原 作 : 志駕 晃

キャスト : 北川景子 : 稲葉麻美

   田中 圭 : 富田誠

   千葉雄大 : 加賀谷学

   原田泰造 : 毒島徹

   成田 凌 : 浦野善治

◆あらすじ
スマホを落としただけなのに

稲葉麻美の恋人の富田は、仕事中にタクシーにスマホを忘れてしまった。富田に電話した麻美は、知らない男が電話に出たので驚いたが、スマホをカフェに預けて返す事になった。しかし、麻美に興味を持った男は、カフェに預ける前に富田のスマホからあらゆる個人情報を抜き出していた。


スマホを受け取った麻美は富田と会って渡した際にプロポーズを受けた。プロポーズは嬉しいものの実家との折り合いの悪い麻美は、最後の一歩を踏み出せないでいた。そんな麻美は友人にもっと自分を開いたほうが良いと勧められ、SNSを再開したところ早速多くの"ともだち申請"があり、旧知の人との繋がりが始まった。


その頃、丹沢山中で連続殺人事件が発生、殺された女性は共通して黒くて美しい長い髪を切り取られていた。警視庁の毒島とITに明るい加賀谷は、殺人犯人に異常な執着を感じた。(画面変わって)犯人の部屋には大量のスマホ。犯人は女性のスマホを手に入れ、弱みを握って誘拐して部屋に拘束、最後は髪を切って殺していたのだ。


スマホが戻ってきてから、富田と麻美の身に次々と変な事が起こった。富田に元家庭教師時代の生徒の千尋から突然連絡があり、浮気を疑われるような状況を作られたり、麻美も大学時代の先輩の武井に強引にキスされた姿を撮られて富田に送り付けられたりして、婚約直前であった2人の仲は急激に悪くなっていった。


スマホにロックをかけられた富田は、麻美がポップアップ広告で知ったセキュリティのプロ・浦野に相談し、ロックを解除してもらった。実は浦野こそがスマホを拾った男で、ポップアップ広告は浦野が仕掛けたものだった。浦野は、幼い頃長い髪をした母親に虐待を受けていたため、そのトラウマから黒い長い髪の女性を襲う衝動にかられて連続殺人事件を起こしていたのだ。


富田と気まずくなった麻美は親切な浦野を頼り、下心を持つ浦野に勧められるままカクテルを飲んで深酔いし、浦野の部屋に連れて行かれた。麻美との連絡がつかなくなった富田は、スマホの位置情報を頼りに浦野のアジトを突き止めた。一方、警視庁の毒島らも匿名の通報を受け、その発信場所を突き止めて急行していた。


浦野は、救いに現れた富田にネットで調べ上げた麻美の秘密を暴こうとしたが、麻美はそれを止め自分の口で告白した。勝ち誇る浦野は富田を殺そうとし重傷を負わせたが、危機一髪駆け付けた加賀谷と毒島らによって逮捕された。


誤解が解けぬまま会うこともなくなっていた富田は、加賀谷から麻美のスマホに残されていた写真を見せられて、麻美が本心から自分を愛していたことを悟った。そして富田は最初にプロポーズしたプラネタリウムで麻美を見つけ出し、仲直りした。プラネタリウムが終わると別のカップルが座っていた席には、忘れられたスマホが残されていた。


◆感 想

現代の生活ではなくてはならないスマホ、とても便利ではあるがそれだけにいろいろな危険を伴っていることは知ってはいても、財布やカードに比べればどこか軽く扱っているような気がする。本作品は時宜に適したテーマを扱っているので、興味を持って観に行った。


「リング」などの作品でホラー映画の第一人者といわれる中田秀夫監督は、タクシーの中でスマホを拾った姿の見えない犯人に、顔も、名前も、住所も、メアドも、勤務先も、全ての個人情報を暴かれて付き纏われる恐怖をミステリータッチで仕上げている。


スマホを拾った謎の男が、富田のスマホの着信履歴と待受画面に設定されていた映像から、電話をかけてきた麻美の顔と名前を特定したほか、記録されていた多くの写真を詳細に比較することで麻美の秘密を暴いていく様子が描かれている。


そうした様子が、アメリカ映画でよく見られる大規模な機材を駆使するハッカーではなく、冴えない男が薄暗い部屋で普通のパソコンを使って次々と対象者の秘密を暴いていく姿がとてもリアルに描かれていて、いかにも日常どこでも起きるよ感があって、標的になった時の恐ろしさがよく伝わった。


但し本作品では、スマホの機能、SNS、ネットストーカーなどITがらみの事象に加えて、座間の連続遺体切断事件にヒントを得たと思われる連続殺人事件や犯人の変質性など、最近の"社会的汚点"をあれもこれも詰め込んで一つの作品で描こうとしており、映画「万引き家族」によく似た構成で無理がある。


連続殺人の対象になった女性はいずれも風俗で知り合った女性だったが、本作品はスマホがテーマだからスマホによって対象の女性に出会ったと描くべきだった。スマホはあくまで手段であって、殺人事件の本質は殺人を犯す人間の人間性そのものにある。だから連続殺人事件を挿入したことは、スマホの危険を訴える本作品のテーマを曖昧にしてしまった。


2018.11.23観賞

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