人生の余り道  (時の足跡)

散り椿

◆スタッフ

監 督 : 木村大作

原 作 : 葉室 麟

キャスト : 岡田准一  :  瓜生新兵衛

   麻生久美子 :  瓜生篠

   西島秀俊  :  榊原采女

   黒木 華  :  坂下里美

   池松壮亮  :  坂下藤吾

◆あらすじ
散り椿

藩の不正を訴え出たものの敗れて藩を追われた瓜生新兵衛は、妻・篠と共に京で隠遁生活を送るが刺客は絶えず、やがて篠は病に倒れた。死の間際に新兵衛に『故郷に戻り、身代わりに散り椿を見ることと榊原采女を助けてほしい』との願いを託した。新兵衛にとって采女は、良き友であり篠を巡る恋敵でもあった。


藩に戻った新兵衛に戸惑う周囲の人々。新兵衛は篠の実家・坂下家に入り込んだ。坂下家の義妹・里見と義弟・藤吾は戸惑いながらも受け入れた。藩では、次期藩主・政家の翌年の帰藩を控え、城代家老の石田玄蕃と側用人候補の采女の確執が高まっていた。


長い間、石田は藩の財政再建を名目に、采女の養父を巻き込んで和紙問屋の田中屋から巨額の賄賂を受け取っていた。8年前のある日、采女の養父は謎の死を遂げ、その場に居合わせた篠の兄・源之進は責任を取って切腹した。しかし、切り口から剣の達人の新兵衛が犯人との噂があった。


政家の帰藩が迫り命の危険を感じた田中屋は、賄賂の証拠となる石田の起請文を新兵衛に渡して用心棒を頼んだ。石田は、藤吾を人質に取って新兵衛に起請文を渡すよう要求したが、新兵衛は既に起請文を采女に渡していたため石田は窮地に陥った。


帰藩した新藩主・政家は、野駆けに出た際に何者かに銃撃された。政家暗殺に失敗した石田は、襲撃事件を防げなかった責任を采女に押し付け、上意討ちを装って采女を切ろうとした。その動きを知った采女と新兵衛は、逆に集結場所に出向いて圧倒的な剣の腕を見せたが、采女は弓に射られて命を落とした。怒った新兵衛は、石田を追い詰め切り捨てた。


1年に及ぶ同居の間に新兵衛への愛を深めた里美は、新兵衛に留まることを求めたが、新兵衛は「わしはすでに散った椿だ。残る椿は藤吾だけでよい。采女の想いは、藤吾が引き継いでくれるであろう」と告げて里美のもとを去った。


◆感 想

名カメラマンの木村大作が、「劔岳 点の記」(新田次郎著)などに続く監督第3作として葉室麟の同名小説を映画化した作品である。映像がとても美しく、登場人物の姿や所作までも素晴らしい出来栄えだった。「絵画のような場面の連続だった」という理由で、モントリオール世界映画祭の審査員特別賞を受賞したのも頷ける。


主演の岡田准一にとっても、本作品は「天地明察」「蜩ノ記」「関ケ原」などに続く5本目の時代劇となる。林の中で一人素振りする画面が何度かあり、また姿勢を低くした近間の殺陣はかなり斬新で迫力があった。エンドロールには岡田准一が俳優としてだけではなく、殺陣や撮影助手としても名前を連ねていた。今や時代劇の顔になりつつある岡田准一といえる。


前半は、新兵衛と篠との愛を中心に描かれているが、セリフや動き、ストーリーの起伏も少なく淡々と画面が続いてやや間延びがした。後半のお家騒動が絡んでくるころからは斬新な殺陣があって迫力が増してきたが、ストーリー的には納得できない部分がある。


葉室麟は「秋月記」がそうであったように、人間を単純には割り切れない複雑で深みのあるものとして重層的に描く作家である。原作の小説は恐らくお家騒動にまつわる権力闘争と、登場人物の奥深い愛情関係が縦横に絡み合って描かれていたと想像するが、映画では省略し過ぎと思われる部分がいくつか見られた。


・政家襲撃の際に身代わりになった篠原三右衛門が死ぬ間際に、実は采女の義父を切ったのは自分だったと藤吾に告白したのは、前後の脈絡がなくあまりに唐突だった。


・篠と采女が若いころに交わした恋文が見つかり、その解釈をめぐって突然に新兵衛と采女が斬り合いを始めた。篠の和歌「くもり日の影としなれる我なれば 目にこそ見えぬ身をばはなれず」の解釈をめぐる誤解が原因だが、映像ではその和歌がほんの数秒映されただけなので、なぜ二人が切り合うのかわからず、キツネにつままれたようだった。


2018.10.09観賞

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