人生の余り道  (時の足跡)

ダンケルク

スタッフ

監督・脚本 : クリストファー・ノーラン

キャスト : フィオン・ホワイトヘッド  :  トミー(英陸軍兵士としてスクリーンデビュー)

   ジャック・ロウデン  :  コリンズ(英空軍パイロット)

   マーク・ライランス  :  ドーソン(小型民間船の船長)

あらすじ・構成

ダンケルク

英仏連合軍の兵士40万人が、ドイツ軍の電撃作戦によってドーバー海峡に面したフランス北端のダンケルクの浜辺に追い詰められ、イギリス本土への撤退を待っている。ドイツ軍の猛攻に晒されつつ、陸軍の若い兵士たちは生き延びようと様々な策を講じる。イギリス空軍は、劣勢にも拘らず3機のスピットファイアを出撃させて撤退部隊を掩護する。対岸のイギリス本土からは民間船が大動員されて、救出のためにダンケルクへ向かう。


物語は、次の三つの異なる主役たちの、異なる時間軸を持つ場面を同時進行で描いている。

・ダンケルクの海岸から脱出する兵士たちの撤退行動(1週間)

・兵士の救出に向かおうとするイギリスの民間船の活動(1日)

・ドーバー海峡上空でドイツ空軍機を迎撃する英軍パイロットの戦闘(1時間)


各場面の時間軸はそれぞれ違うものの、桟橋、船、戦闘機の3つの視点から淡々と撤退戦を描き出し、最後は救出の瞬間にうまく収束して英本土に帰り着く兵士たちが描かれている。

感 想

ダンケルクの戦いは、第二次世界大戦の西部戦線における戦闘の一つで、開戦後間もなくドイツ軍の戦車と航空機による電撃作戦で追い詰められた英仏連合軍が、1940年5月末に実施した撤退作戦である。しかし、作品の中ではドイツ軍機甲師団はどこにいるのか、ドイツ軍の空爆はなぜ散発的なのか、連合軍の艦船はなぜ救援に来ないのかといった戦況は一切描かれていない。


解説では、ここに監督クリストファー・ノーランの意図があるという。当時、浜辺に追い詰められた個々の兵士には戦況がわかるはずもなく、自分たちは何をしたら良いのか、どうすれば苦境を逃れられるのかはわからなかった。ノーラン監督は、観客も同じ立場に追い込んで、背後から危機が迫ってくる時の若い兵士たちと同じ恐怖と絶望を体感させたいと考えたという。


ダンケルクの海岸で、兵士たちが長蛇の列を作って救援船の来るのを待っている。やがて小さな輸送船が一隻接岸、乗船を待つ浜辺の兵士は機銃掃射を受けたが生き延びたものが多い。しかし、漸く輸送船に乗り込んで安堵の表情を浮かべた兵士たちは、間もなく戦闘機によって船が撃沈されて悲惨な運命をたどった。どんより曇った灰色の映像で、運・不運の冷酷さが描かれている。


本作品は、「フューリー」や「プライベート・ライアン」のような戦闘アクションは殆どなく、陸・海・空の3つの場面それぞれの主人公が優勢な敵に追い詰められる恐怖と絶望感が淡々と描かれている。特筆すべきは、敵であるドイツ兵の姿が全く見えないことである。よく考えれば当然で、自分が今戦っている敵兵の姿や行動はほとんど見えていないはずであり、「存在するのに映さない」ノーマン監督の考え抜かれた表現法だと思う。


登場した3機の実物の戦闘機・スピットファイア。CGを排除して本物にこだわる映像と館内に響き渡るエンジン音が臨場感を生み出している。救出に向かう民間船の背後から迫る戦闘機、一瞬緊張した老船長はそれがロールスロイスのエンジン音であることに気づき、その安堵の表情には味方に対する誇りと信頼感が感じられた。その通りに、最後の1機となったパイロットは、燃料が尽きるまで船の掩護を続けた。


愛国心がこの映画の重要なテーマになっていると思った。

ガス欠になるまで掩護した最後の戦闘機! あの老船長の長男は1週間前にパイロットとして戦死した。それでも次男を連れてダンケルクに向かった。政府の呼びかけに応じて命をかけて救助に向かった多数の民間船。本土に帰り着いた敗残の兵士を待っていたのは暖かいコーヒーとパン、そして「生きてるだけで十分」と労う市民だった。これが、"ダンケルクスピリット"と言われ、後にイギリスが反転攻勢できた原動力だと思う。


2017.09.25観賞

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