人生の余り道  (時の足跡)

たたら侍

スタッフ

監督・原作・脚本 : 錦織良成

エグゼクティブプロデューサー : EXILE HIRO

キャスト : 青柳翔(劇団EXILE) :  伍介

   小林直己(EXILE) : 新平

   AKIRA(EXILE) : 尼子真之介

   津川雅彦 : 与平

あらすじ

たたら侍

出雲の山奥のたたら村が盗賊に襲われ多くの村人が殺された時、伍介と母の命を救ったのは近郷の武士・尼子真之介の一党だった。時が移り(1582年)たたら村では、伍介の父・弥介が代々続く鋼(はがね)作りの長「村下」(むらげ)に就き、初めての鋼作りには息子・伍介も加わった。


得意先に鋼を届けるため村を出た平次郎が野盗に襲われ殺されたため、伍介は強い侍になろうと周囲の反対を押し切って村を出た。大型船で敦賀に入った伍介は、武器商人・与平から織田家の家来を紹介された。しかし、敵に襲われた時、伍介は腰を抜かして戦場を逃げ回わり、戦意を喪失して村に逃げ帰った。


たたら村に来た武器商人・与平は、弥介に鉄砲の製作を依頼したが断られた。一方、与平に扇動された伍介は、自分たちで村を守ろうと考え長老たちの反対を押し切って鉄砲を作り始めた。与平は織田軍が攻めてくると言いふらして仲間の野武士を強引に村に入れ、物見らしき武士が近づいた時に勝手に狙撃させた。


成り行きに悩んだ伍介は尼子真之介の館を訪ね、与平がたたら鋼を狙っていることを知る。与平を斃すため村に忍び込んだ新平と女忍者は、気付かれた野武士と戦いになり新平は殺され、助けようとした伍平も切られた。尼子真之介は手勢を引き連れてたたら村に攻め入り、自分の命と引き換えに与平のねらいを阻止した。伍介は多くの身近な人を失ったが、自分だけが生かされた天啓を感じて鋼づくりに励んだ。


感 想

たたら製鉄については、山本兼一著「いっしん虎徹」に詳しく書かれていることから関心を持っていた。「たたら侍」という映画が作られたことを知った時、内容はともあれ迷いなく見に行こうと思った。本作品は、プロデューサーのHIROをはじめ主要な役はEXILEのメンバーで占められており、EXILEファンにとってはうれしい映画であろう。


島根県出身の錦織監督は、幻想的で美しい出雲の自然や地元に伝承される神楽など、出雲地方の魅力を描き尽くした。巨費を投じて出雲の山奥に大規模なオープンセットを作って、たたら製法による玉鋼の生産を再現した。また、最近流行のCGやスローモーション撮影などを一切使用せずに戦闘場面をリアルに描いた上に、伍介が乗った帆船に実物の大型木造船を登場させるなど迫力満点の画面を創り出している。


制作陣には「日本の文化を世界に発信するため。日本の人々には改めて"日本の心"を感じてほしい」との意図があり、海外では一定の評価があったという。しかし、ストーリー展開が説明不足というか、矛盾するような場面が多々あり、素直に映画に入り込めない面があった。


主人公の伍介は、侍になるために父や長老たちの制止を振り切り、死を覚悟して村を出たにもかかわらず、敵に襲われたら腰を抜かして村に逃げ帰った。その伍介を長老たちは"生きる意味、生きる場所のある人間が一番強い"と慰め、簡単に許した。伍介と長老たちの、いかにも覚悟のない様に何を訴えようとするのかわからない。


与平に扇動されて伍介たち若者が鉄砲を作る場面がある。しかし、たたら村には刀鍛冶はいないし、たたら鋼は生産量の極めて少ない貴重品だ。ところが長老に背いた少数の若者たちが瞬く間に数十、いや百丁を超える銃を作ったのは、技術的にも物理的にもおかしい。種子島伝来後わずかな期間で織田信長らが鉄砲を所有できたのは、堺をはじめ各地に優秀な刀鍛冶がいたからだ。


伍介の優柔不断な行動が原因で野武士との戦いが起きて、親友や尼子真之介など多くの人々が死んだにもかかわらず、最終的には伍介が村を救った展開になっている。そして、伍介の度重なる間違いに気づきながら、何も正そうとしない無気力な長老たち。当時の家父長制を考えればこんなことはあり得ず、脚本に問題があるように思った。


上映打ち切り

覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された橋爪遼が出演しているため、制作実行委員会は6月9日で本作品の上映打ち切りを決めた。5月20日からわずか3週間の劇場公開になってしまった。黒澤明監督を彷彿とさせる重厚なセットなど、監督・スタッフの思い入れが強く感じられる作品なので、再編集して再び上映されることを期待したい。


2017.06.03観賞

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